自分の児文

元々は児童文学の感想置き場でした

2021年まとめ5選

2021年に触れたもので素晴らしかったものを各部門5つ選出。

忘れているものとかもあるので、後から思い出したら変わるかも。

 

 

アニメ

今年は新作アニメ、過去作アニメに加えて劇場アニメ部門も設立。

 

新作アニメ5選

新作アニメの感想は各クールの感想に書いてあるので省略。(秋アニメは後々)

フルーツバスケット The Final

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ゾンビランドガリベンジ

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 Sonny Boy

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やくならマグカップ

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大正オトメ御伽話

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劇場アニメ5選

今年は結構劇場アニメも沢山見た気がする。まだEUREKAを見れていないから早いとこ見に行きたい。

 

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

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今年はこの閃光のハサウェイが見たいがためにガンダムシリーズを1から見始めて、その熱冷めやらず小説版を読むまでに至った。

逆シャア時点でのシャアの思想を頭に入れておくとだいぶ面白く見れるので、見てない人は最低でも逆シャアから見てみることをお勧めする。

 

本編は市街地戦闘の後にギギがケネスのもとへ駆け寄るシーンでクェスがフラッシュバックするシーンや、ハウンゼンでの「やっちゃいなよ!」のシーン、「身構えているときには死神は来ないものだ、ハサウェイ」のアムロのシーンを筆頭に、アニオリでの素晴らしい演出が多くて大満足の出来だった。

作画も素晴らしく、ロボットアニメのステージが一つ上がったなと感じさせてくれる2021年を象徴するアニメだった。

 

 

 

映画大好きポンポさん

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面白いの一つの側面として"共感"というものがあって、それの究極系が「映画の中に自分を見つける」ことなんだと思う。

このキャラクターは自分だと感じる瞬間ってやっぱりアニメを見ていたり漫画を読んでたり小説を読んでいたらあるし、それが全てではないけれど、それも一つの楽しみ方としてある。

MEISTER」の中に自分を見つけたジーンのように、ジーンの中に自分を見つけた視聴者は多かったはずだ。

私はジーンのように映画好きが高じて映画業界に入ったりなどもなく、何も生み出せない身ではあるけれど、それでも私もジーンの中に自分を見つけた。別に全部が全部同じであるわけもなく、お前如きが烏滸がましいと言われるかもしれないが、好きなものに対する情熱と青春を"好き"に捧げたという点においてジーンは私だし私はジーンだった。それは誰に否定されることもないし、誰に恥じることでもないのだ。

 

 

蒼穹のファフナー THE BEYOND 10~12話

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蒼穹のファフナーシリーズも17年の時を経て、ついに完結。物語はさながら竜宮島を巡る年代記のような分量になり、とてもあらすじをここに書き切ることなんてできない。この春からの就職先も実はファフナーの影響があって、この作品は自分の人生とは切っても切り離せない作品になった。

最初は新総士も好きじゃなかったし主人公が美羽と総士に変わったのも結構嫌だったんだけれど、考えれば考えるほどこれにしっくり来ている自分もいる。

 

争いを好まずフェストゥムに対してすら慈愛の心を持った美羽は、人を憎まずフェストゥムとの共存の可能性すらも積極的に探っていた真壁文彦以下竜宮島の大人たちが未来に託した希望が結実したかのような存在だ。彼女の存在こそが竜宮島のこれまでの活動を物語っている。竜宮島の大人が子供たちに教えるのは、戦い方ではなく人間としての生き方だった。

竜宮島は文化を継承し次世代へとバトンを繋ぐことに重きを置いた。人類がフェストゥムに勝利したとて、その先に人々の営みがなければそれは人類の敗北だ。次世代に文化を繋いでいくことこそが人間であるというのが竜宮島の精神なのだろう。

だからこそ美羽も自己犠牲を行ってでも次の世代に繋げることを選択した。

 

そしてそこにこそ総士(新)という存在が必要だった理由もあるのかなと思う。竜宮島の外で育ち、竜宮島の精神を受け継いでいない総士という存在だからこそ、自己犠牲なんてクソ喰らえだとぶっ飛ばし、誰も犠牲にしないという第三の選択肢を見つけることができたのだろう。

結局のところ自己犠牲をしてまで次の世代へとつなげることが竜宮島の意思である時点で主人公が世代交代することはごくごく自然なことだし、そしてそれをテーマとしている時点で、これ以上誰も犠牲を出さぬようにという展開に持っていくためには竜宮島の"外"の人間が必要だったのだ。そう考えるとこの物語の終着点はこれ以外にはあり得なかったなと感じる。

 

 

 

アイの歌声を聴かせて

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景部市高等学校に突然転校生としてやってきたシオン。彼女は、クラスで孤立するサトミを前に、突然歌を歌いだす。これをきっかけに、ふたりは仲良くなり、シオンは瞬く間にクラスの人気者になる。しかし、シオンは時折不可思議な行動をして周囲を驚かして……

構成がめちゃくちゃ良かった。メインの登場人物が抱える問題を一つ一つ丁寧に解決していって、最後に「サトミを幸せにする」という単純明快な目的のもと全ての伏線が回収されて皆でハッピーエンド。もうこれ以上に望むことなんてない。

 

 

ARIA The CREPUSCOLO/The BENEDIZIONE

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ARIA蒼のカーテンコール第ニ章と第三章が六年の時を経てついに公開。AVVENIREの時ですらボーナスステージのように思っていたのに、令和の時代にまたARIAの新作を見られるなんて思わなかった。

 

AVVENIREはどちらかといえば今までの原作やテレビシリーズの延長線上のARIAという感じがあったが、このCREPUSCOLOやBENEDIZIONEは映画用にしっかり構成されたドラマチックなARIAだったなと思う。

私の中でARIAって日常のほんの小さな素敵を大切に大切に描いてくれる宝物のような作品で、だからAVVENIREのいつもの日常の素敵エピソードを複数詰め込んだ形式も大好きだ。テレビアニメで取りこぼしたケットシーとの別れを描いたり、新たな世代のウンディーネたちの出会いを描いたり、そして独立しているように見えたそれぞれの話もちょっとずつ繋がっているという仕掛けもあったりして、ただのオムニバスにはとどまらない素晴らしい作品だったと思う。

対してCREPUSCOLOやBENEDIZIONEには、一個の大きな屋台骨となる問題がある。序盤から中盤はその問題を解決するための手掛かりを過去のエピソードから拾い集め、終盤にその問題の答え合わせがあり、最期はこれからの未来に希望を託して終わるという構成になっている。日常成分こそ少なかったものの、ARIAの"映画"として見応えのある素晴らしい作品だったと思う。

 

そして、AVVENIREからBENEDEZIONEの青のカーテンコール三部作で一貫して描かれたのは「あの頃は良かったじゃなくて、あの頃も良かった」というメッセージだ。これは原作でも度々登場するメッセージであり、それこそ原作の最終話でも登場する、いわばARIAという物語全体に通う通念のようなものだ。

元々はアリシアさんの台詞だが、CREPUSCOLOでは灯里が皆に向けてこの台詞を言ったり、確実にこのメッセージは彼女たちの中に息づいているのがわかる。過去の思い出話から徐々に現在へ話は向かって行き、最期に未来への希望を持たせて終わるという話の構成も、このメッセージとバッチリ噛み合っていて素晴らしい。

だからこの一言を映画館で聞けたとき、私は「この映画は決して蛇足などではない」と確信したのだ。

 

 

 

 

過去作アニメ5選

去年はまとめ記事で00年代アニメを沢山掘ったと書いたが、今年もその傾向は継続中。有名どころや名前は聞いたことあるようなのはぼちぼち見尽した感じがあったので、OVAとかWOWOWアニメとかそのあたりにも手を出して色々見て言った感じ。

 

新世界より

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1000年後の日本。人類は「呪力」と呼ばれる超能力を身に着けていた。

注連縄に囲まれた自然豊かな集落「神栖66町」では、人々はバケネズミと呼ばれる生物を使役し、平和な生活を送っていた。その町に生まれた12歳の少女・渡辺早季は、同級生たちと町の外へ出かけ、先史文明が遺した図書館の自走型端末「ミノシロモドキ」と出会う。そこから彼女たちは、1000年前の文明が崩壊した理由と、現在に至るまでの歴史を知ってしまう。

禁断の知識を得て、早季たちを取り巻く仮初めの平和は少しずつ歪んでいく。

 

常識なんてものは時代と共に移りゆくもので、今の常識がいつまでも常識であるとは限らない。そしてその常識すらも、ふとしたきっかけで崩れ去ってしまうかもしれない。そんな恐ろしさを感じる作品だった。

 

私がファンタジーに求めるものとして、「見たことのない世界を見せてくれる」というのがある。別にそれが全てだとは思わないし、そうでなくても面白い作品なんてごまんとあるけれど、少なくとも私の中では一つの重要な評価基準にはなっている。

それはやっぱり幼い頃から読み続けた児童文学の影響なのだろう。ミヒャエル・エンデが、D.W.ジョーンズが、ラルフ・イーザウが見せてくれた世界は、他の誰にも創造しえなかった驚きとワクワクに満ちていた。あの頃から歳を重ね、沢山の作品に出会った今見ても唯一無二だと思わせてくれる世界だ。

そういう意味でこの新世界よりという作品は私にとって数少ない"本物のファンタジー"だった。

 

 

今、そこにいる僕

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ほんのり昭和の香りのする時代の日本でごく普通の生活を送っている少年・シュウ。謎の少女・ララルゥと出会い、突如として別の世界に飛ばされることからストーリーが始まる。

世界観の説明は殆どなく、ただひたすらにキツい描写が続く。いきなり異世界に飛ばされて、拷問を受け、戦争に駆り出され、人を拐い殺せと命じられるシュウ。全く理不尽な暴力の数々、それは肉体にも精神にも容赦なく襲い掛かる。シュウはその理不尽な暴力にもその結果生まれた悲しみにも、対抗する手段も答えも持たない。

それでも彼は正しいことを正しいと、間違っていることは間違ってると言い続けた。誰だって戦争が間違っていることなんてわかっていた。人を害することでしか生きていけないからと良心を殺し正しさから目を背けていた人たちの中で、どれだけ辛い目に合ったとて正しさを曲げないシュウという存在は直視できないほどに眩しかった。

 

 

 Ergo Proxy

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“死の代理人” それは、創造主が仕組んだ悪意……人とロボットが共存し“感情を必要としない楽園”ドームシティ・ロムドで起きた謎の殺人事件を追う女性査察官リル・メイヤーは自宅のバスルームで異形の超人の襲撃に遭う。物語はやがて螺旋に織り成す謎を纏い、リルを見果てぬ外世界へと誘う――圧倒的な世界観の中で繰り広げられるダーク・サイファイ。近年では「虐殺器官」「GANGSTA.」の監督や、話題を呼んだ映画「ブレードランナー2049」のショートフィルム「ブラックアウト2022」でキャラクターデザイン・作画監督を手がけた村瀬修功によるオリジナルSFサイコサスペンス・アニメーション!

物語は実に難解で、殆どの事柄に説明がなされないまま進む。振り落とされないように腰を据えて見て、些細な描写までもを覚えておく必要があったためかなり見るのに体力が必要だった。

というか、「一度通して見る→(よくわからなければWikipediaなどで設定を補完する)→二度目の視聴」というのがこの作品を楽しむためには必須だと言っても差し支えない。一度目の視聴ではよくわからないまま流していた描写も、設定を十分に把握した上で見ればそういう意味だったのかという驚きと共に理解されることだろう。

この作品の凄いところは、その膨大な設定の数々が裏設定などではなく、作品をしっかりと見てそのピースを繋ぎ合わせていけば必ず現れてくるところにある。設定資料集を読めば、あるいは他のメディアミックス媒体を見れば設定が補完されるなどといった甘えは一切なく、全てアニメの中に描かれアニメ単体で一つの作品として完結しているのだ。

 

 

 機動戦士Zガンダム

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Zガンダムを見て私が感じたことは「シャアという男の悲哀」だ。

Zの最終回でシャアはシロッコハマーンに対して「私が手を下さなくともニュータイプへの覚醒で人類は変わる」と発言している。

しかし、結末を見るとどうだろう。ニュータイプであるシロッコは明確に分かり合いを拒否し、カミーユは高すぎるニュータイプの感応力が仇となって、シロッコの怨嗟によって心を破壊されてしまった。

ニュータイプ同士ならば誤解なく分かり合えるというのは幻想で、現実はたった二人のニュータイプ間であっても"わかりあう"ことはできなかった。結局のところ、全人類がニュータイプに覚醒したとて"わかりあう"ことなど不可能なのではないかとも読み取れる、絶望的な結末だ。

しかし、シャアという男は違った。彼は"ニュータイプのなりそこない"と称されていたように、彼自身はニュータイプになれなかった。だからこそ、彼はニュータイプに対する幻想を捨てきれなかったのだろう。あの結末を受けてなお、ニュータイプが全てを解決してくれるという幻想に縋り、アクシズ落としという修羅の道身を投じてしまったのではないかと私は思う。

彼が本当にニュータイプであったならば、本当の意味でわかりあうことなどできないと気づき、別の道を辿る選択もあったかもしれない。それを思うとシャアアズナブルという男が如何に悲しい男であったかが分かるというものだ。

 

 

彩雲国物語

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中国・唐のような架空の国を舞台に、名門紅家の長姫である紅秀麗が官吏(役人)としてあれやこれやの大奮闘をする物語。

物語は紅秀麗と国王・紫劉輝を両輪として回っていく。

劉輝は秀麗のことを特別に思うが故に、権力を持っているからこそ手助けすることができない。手助けしてしまえば「王族の後ろ盾を持っている」「どんな手を使って取り入ったのか」という非難や偏見に晒されることになるし、劉輝自身に対する不信感にもつながってしまうからだ。

そして秀麗もそれを望まない。彼女が官吏になったのは国民を、そして劉輝を支えるためであり、劉輝の足枷になるためではないからだ。

互いが互いを大切な人と思っていながら、直接手助けできない歯痒さ。そして紫劉輝からの矢印は恋なのに紅秀麗からの矢印は恋ではないという非対称性に、国王と一官吏という身分の非対称性も本当に切ない。

私の中でNHKアニメと言えばプラネテスだったが、この作品は唯一それに並びうるぐらいに思い入れのある作品になった。

 

 

 

漫画

漫画は去年と同じように2021年に完結巻が発売した漫画と第一巻が発売した漫画を5つずつ選んだ。

 

完結漫画5選

あまんちゅ

天野こずえ先生の日常ときどきダイビング漫画が堂々の完結。

終盤のぴかりが脚を折ってしまう展開やぴかりが明るく振舞っている裏で実は泣いていたという事実に、こんなことはあまんちゅに求めていないと顔を顰める人もいたようだが、私的には必要な話だったと思う。

てことぴかりはバディで、どっちが上でも下でもない横並びの存在であって欲しい。でもいつもぴかりがてこの手を引いていてはその関係は対等とは言えない。

ARIAで完全無欠に見えたアリシアさんが灯里との日々を終わらせたくなくて灯里のプリマへの昇格を躊躇してしまったように、灯里が変わっていくことがどうしても不安で怖くなってしまったように、天野こずえ先生の描くキャラクターは完璧なように見えて、その実不完全な一人の人間なのだ。

いくら綺麗に見えたってその裏で抱えている思いはやっぱりあってしかるべきで、それがないというのならそれはまさしく綺麗ごとだろう。だけど、全くそんなことはないのだ。

だからぴかりが常に明るく周りを引っ張っている裏で自分自身に思うことがあるというのはやっぱり当然で、そこを踏み込んで描くことは作品のためにも、そしてぴかりを完全なキャラクターから不完全な一人の人間にするためにも必要なことだったのだと思う。

 

 

太郎は水になりたかった

中学二年生の太郎の家には母親がいない。少しシャイで、同じクラスの谷村さんのことが好きで、親友のヤスシと毎日しょうもない妄想ばかり繰り広げては笑い転げる。そんな太郎とヤスシの、馬鹿みたいだけど真面目な中学生活も遂に完結。

親友が別のやつと仲良くなってぎこちなくなることもあるし、好きな人の好きな人は自分じゃないと知って落ち込むこともある。そんな誰にでもある、全然キラキラしてないけれどかけがえのない青春。冴えない青春を送ってきた誰もが経験しているようなしていないような、でも絶対に共有できる感情がそこにはある。

 

大橋裕之作品は絵こそ独特で一見手抜きや下手に見えるかもしれないけれど、ヘタウマでオシャレでみたいな方向に全く逃げずに、雰囲気で誤魔化したりすることもなく、しっかりとストーリーやギャグが練り込まれている。その上でこの絵のラフさを逆手に取って、だからこそ成り立つ話やキャラのぶっ飛び方までしているものだから本当に凄い。普通の絵柄で描かれたら「いやいや、どんな世界観だよ」と思ってしまうことが、このラフな絵柄だからこそ成り立っている。

ギャグは笑えるしストーリーもしっかりしてるし、作品全体から薫るノスタルジーにも舌を巻くものがある。その上時々鋭い切り口で核心を突いたことを言うものだから、私は大橋裕之作品から目が離せないのだ。

 

 

 

尾かしら付き。

尻尾のついた男の子・宇津見と、そんな男の子のことが気になる女の子・樋山那智。そんな二人が様々な偏見を乗り越えて一緒になるまでの10年間のお話。

マイノリティーに対する偏見の目はどこにだって存在しているが、こと学校という世界の中においてそれは最も残酷に機能する。尻尾があることで"皆と違う"宇津見は酷い偏見に晒され、学校という世界から爪弾きにされる。誰一人として同じ人間はいないのに、表面上の"同じ"から外れただけで人は容赦なく切り捨てられる。

佐原ミズ先生は偏見や差別や負の感情をはっきりと描く。それはもしかしたら私たちが普段生きてるなかで無意識に、当たり前にしてしまっているかもしれない差別だ。見ず知らずの人を値踏みして、「さっきのあの人ヤバくなかった?」なんて、どこでだって聞く会話。その人の内面も何も知らないくせに、無責任な言葉のナイフを放ってしまうことなんていくらでもある。自分が言われたときの痛みを想像しないまま人に暴言を吐いてしまう人なんていくらでもいる。

先生の漫画に出てくるキャラクターはいつもそんな言葉を投げかけられる側の人間だ。でも先生の描く作品が荒み切った悲しい話かと言われればそうではない。世界が優しくなくたって、世界に優しい人がいない訳じゃない。誰に否定されようと特別なたった一人が認めてくれたら救われることってきっとあって、それがきっと宇津見にとっての那智であり那智にとっての宇津見なのだ。

 

 

友達として大好き

友だちの作り方が分からない女の子・櫨沙愛子が生徒会長・高敷結糸と本当の友達になるべく頑張るお話。

早期完結ながら非常に美しい幕引きだった。1話を読んだ時にちょっと引いてしまったのだけれど、そんなことはぶっ飛ばせるぐらいに素晴らしい作品だったので是非読んで欲しい。

沙愛子は初手でエッチを迫ったりする中々にぶっ飛んだキャラクターではあるけれど、その根本には仲良くなりたいけどどうすればいいかわからないという不器用な心があった。言葉や行動が間違っていただけでとっても素直で優しい子だから、表面上の彼女ではなくて、その不器用な心を汲み取ってくれる優しい人たちと出会えて本当に良かったと思う。

 

 

ロストラッドロンドン

地下鉄でロンドン市長が殺された。偶然同じ電車に乗り合わせた大学生・アルと事件の捜査に当たった刑事・エリス。事件によって出会った二人が真犯人を探すクライムサスペンス。

会話やジョークの言い回し、構成上の引きの作り方が抜群に上手い。題材や舞台がアメリカなのも相まって、良質な海外ドラマを見ていると錯覚してしまうほどだ。人種を強調したデフォルメだったり、擬音を表すような描き文字が一切なかったり、トーンを一切使わず白黒グレーのベタ塗りのみで構成したスタイリッシュな画づくりであったり、日本の漫画っぽさを極力排した挑戦的で素晴らしい作品だった。

この作品にはアメリカの人種差別意識についても盛り込まれている。アメリカにおいて白人ではないとはどういうことなのか。当事者ではない私にはわからないが、主人公たちの性格がその差別問題に影響を受けた造形になっていて、その上でアルとエリスのコンビが成立していることに説得力を持たせるところにまで繋げているのだから凄いとしか言いようがない。

 

 

新作漫画5選

まじめな会社員

 菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せずにいる自分へ向けられる世間の厳しい目を、勝手に意識せずにはいられない。それでもコツコツと自分なりに築いてきた人間関係が、コロナで急に失われたら……⁉

作者の解像度の高さにただただ脱帽。ふとした時に対人関係で抱く曖昧模糊とした感情をはっきりと形にして突きつけられる、この漫画はそんな漫画だ。所謂社会では自分を偽って生きている、そう感じる痛い人間としては読んでいてとても共感できるところでもあり、身につまされるところでもあり、読んでいて胃がキリキリするような感覚を覚える。

中でも一番グサッときたのが「友達の中でも人気の低い友達」というフレーズ。せつないけれど、これを自覚してしまう瞬間ってかなりある。そしてそんなことをあみ子が考える度に「頑張れッ……!」となってしまうのだ。だって悲しいかな、あみ子の中に自分を見つけてしまったのだから。

 

 

アンサングヒーロー

舞台はレコード会社「ガイアミュージック」。やる気が空回りし怒られてばかりの新人A&R・後免一郎が、圧倒的才能を持ったじゃじゃ馬娘・柊ジャムを発掘し、彼女をプロデュースする物語。

主人公の後免は元々ミュージシャン志望だったものの夢破れてA&Rになったという経歴もあって、その才能の対比というものが切ない。A&Rってアニメで言うところの制作進行、漫画や小説で言うところの編集みたいな感じで、クリエイティブなところに最も近いけれどクリエイティブ職ではないわけで。だからアーティストやクリエイターとの間にはどうしても埋められない溝みたいなものがあって、それがはっきりと描かれているのがとても残酷。

でも同時にそれは悲観すべきものでもないという救いも描かれているのがこの作品の素晴らしいところだ。柊ジャムは確かに後免にクリエイティブな領域について相談しないけれど、それは決して後免を見くびっているわけではない。むしろ彼を最大限に信頼しているからこそ、自分はクリエイティブな部分に集中し、それ以外を彼に丸投げできているのだ。

そしてその描写によってこの作品のタイトルである「アンサングヒーロー」という言葉が効いてくる。この作品の主人公は、誰に称賛されなくとも縁の下でアーティストを支える後免一郎なのだ。

 

 

勇気あるものより散れ

ガンスリや1518の相田裕先生の最新作。

ガンスリは全てを失っても残りの限られた命の中で生きる意味を探し、次の世代への希望を繋いだ少女たちの話であったが、この作品は永遠の命という絶望の中で、この悲しみの連鎖を断ち切るために、次の世代を作らないために「母親を殺す」という決意をした少女の話だ。一見真逆に見えるが、テーマとしては共通しているようにも思う。

相田裕先生の作品は全て、それこそ1518も含め、「失った人々が、そこから何を目的に生きていくのか」ということを描いている。

この作品で言えば、主人公の春安は家族も藩も失い「生きる意味」を失っていたし、ヒロインのシノは家族諸共に「人間としての尊厳」を奪われた状態であった。そこから、「シノの母親を殺す」という目的を得て物語が進んでいくわけだ。

誤解を恐れずに言えば、私はこの失った人々の物語というのが好きだ。成功よりも諦めや失敗を積み重ねた数の方が多い私のような人間には、失った者たちの物語はとても心に響く。結局人間上手くいかないことが殆どの世界で、失敗を後悔するのではなく辿り着いた先で強く生きれる人でありたいなと思わされる。

 

 

ひらやすみ

特別なことは何もないけれど、それでも読んでいて心躍るような、そんな平屋ぐらしのお話。30手前でフリーターの主人公だが、彼の生活に悲観や不安など微塵もない。彼の生活はただ日々を楽しく過ごせればそれでいいじゃん?ってなもので、でもリアリティがないかって言われるとそんなこともないのが良いところ。

彼もただ適当に生きてきたわけではなく、夢に追われ生活に追われ、心を擦り減らすように生きてきた過去がある。そのことが今の彼を作っているのであり、だからこそ彼に共感できるし、こういう精神性でいたいなと思える、ある種の憧れとでも呼べるような感情さえ呼び起こすのだろう。

悪意に悪意で返さない。むしろそれを包み込んでこちらのノリに巻き込んでしまう。そんな彼の生活は、何がなくても見ていて気持ちが良いのだ。

 

 

トリリオンゲーム

天才的なコミュニケーションスキルを持つが技術力はないハルと技術力はピカイチだけどそれ以外はテンでダメなガク。彼らが手を組み目指すのは1兆$を稼いでこの世の全てを手に入れること。

ハッタリとごまかし、外連味バリバリ勢い任せの物語の中にもガクという常識的なキャラクターが居ることで、ファンタジーではない現実に地に足のついた作品になっているのが良い。ガクの凄さが現実離れしてないことによって、ハルが御膳立てしてあとはガクに丸投げって形にならないのもまた良い。いつでも二人で問題に挑戦する形になっているところがバディものとして最高にイかしてる。

池上遼一先生がギャグでデフォルメされた表情を描くのもビックリ。まだまだ進化し続けてるんだなぁと。

 

 

 

音楽

音楽に関しては本当にアニソン以外に興味がないしそれもあっさい興味だけなのでアニソンのみ。

アニソン5選

星のオーケストラ/Saji
星のオーケストラ

星のオーケストラ

  • saji
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

大好きな作品の素晴らしいアニメ化でOPも最高ってもう隙がない。

歌詞も最高。

「あきらめかけたその先にきっとまだ希望のみちがある」

 

 

春うらら/GENIC
春うらら

春うらら

  • GENIC
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

途中でラップが入るアニソン、結構評価が別れるけど私は大好き。

 

 

夢を手に、戻れる場所もない日々を/フランシュシュ
夢を手に、戻れる場所もない日々を

夢を手に、戻れる場所もない日々を

  • フランシュシュ
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

1期の頃は曲が全部ぶっ刺さった奇跡みたいな作品だったから、2期はそこまで刺さらなくてちょっぴり残念なところはあった。でもこのEDと風の強い日は嫌いかだけはめちゃくちゃ好き。

 

 

閃光 / [Alexandros]
閃光

閃光

  • [Alexandros]
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

閃光のハサウェイを見たいと思ったもう一つの理由。

単純に曲が良いアニメってそれだけで何か良いアニメだなって思っちゃうことって結構あって、乗せられてる気がして悔しいけどやっぱ良いもんは良い。

 

enemy / blank paper
enemy

enemy

  • blank paper
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

途中でラップが入るアニソン2。

BACK-ONが女性ボーカルとフィーチャリングすることは度々あったけど、今回は倖田來未との夫婦ユニットとして覆面で出てくるという気合の入りっぷり。その気合に違わず曲も最高だし、倖田來未の力強い歌唱と合うのなんの。

 

 

まとめ

2021年も素晴らしい作品にたくさん出会えて本当に楽しかった。

ブログは一記事一記事文体や書き方を試行錯誤して、結局迷子のまま2021年も駆け抜けていった感じがする。

例えばこの記事は作品を見て主観的に受け取ったメッセージや演出的なものを主体に、半ば「これはこうだ!」と決めつける感じで独善的に固く書いてみようと思ってこんな感じになったのだが、これが意外にも結構気楽だった。元来自分はそういう強い言葉で言い切っちゃう文章が苦手なのだけれど、それを自分でやってみると意外と無責任だけど気楽だなとも思える。結局は解釈なんてその人が正しいと思えば正しいのだから、別にそんなに言葉を濁して予防線を張らなくてもいいのかもな、なんて風にも思えたりして結構収穫があった。固い文体はあんまりしっくりこないから今後はもうちょっと柔らかくしていきたいけど、やっぱ何事も自分で手を動かさなきゃわからないもんだし試してみて良かったなと思う。

また今年も各期アニメの感想とまとめ記事ぐらいしかあげないだろうけど、気が向いたら読んでくれると嬉しい。

では。