自分の児文

元々は児童文学の感想置き場でした

ゾンビランドサガリベンジは誰のための物語か

ゾンビランドガリベンジを見終えてから結構経ちましたが、ようやく思っていたことを咀嚼できたので書き残しておこうと思います。

今から書くのは私が感じた物語の一つの側面でしかなくて、必ずしも正解じゃないし、これ以外の面も沢山あることを念頭に置いておいてください。

 

 

ゾンビランドサガは源さくらを救うためのプロジェクト

ゾンビランドガリベンジ第1話、巽幸太郎はBAR New Jofukuで失意の中酒を飲んでいました。ただでさえ時間が限られているらしいフランシュシュがアイドル史上最大の失敗を喫し、莫大な借金を抱えてしまったのだから立ち直れなくても無理はありません。

バーのマスター徐福はそんな幸太郎を再び焚き付けるために発破を掛けますが、その中にこんな言葉がありました。

 

「元々、お前のエゴで始めたことだ。お前のエゴで終わらせりゃあいい」

 

いままで幸太郎はことあるごとに「佐賀を救うため」と口にしてきました。それこそ1期1話でさくらに「私何でアイドルやるんですか?」と聞かれたときからずっと言い続けています。

だがしかし、徐福はゾンビランドサガプロジェクトは幸太郎のエゴで始めたことだと言うのです。徐福は自称ではありますが「佐賀そのもの」であることが明言されており、つまりは土地神かそれに類するものであると考えられます。人間をゾンビィにする術は、佐賀事変を含むこれまでの徐福の発言などから徐福が持つ力、あるいは徐福が幸太郎に与えた力とみてほぼ間違いありません。そのゾンビランドサガプロジェクトの根幹に関わる彼がこう言うのですから、このプロジェクトの目的が巽幸太郎のエゴなのは本当のことなのでしょう。

 

では、その巽幸太郎のエゴとは何なのでしょうか?

 

そのヒントは幸太郎の過去に隠されています。一番わかりやすいのはリベンジ11話の幸太郎の回想でしょうか。

その回想の中では、幸太郎が源さくらのオーディション応募封筒を手に何かを悔やむような描写がなされています。そして「たとえ誰に恨まれようと」「たとえ神や悪魔が相手になろうと」「俺はやる!」という文字が画面に映し出されます。

この描写からわかることは、幸太郎がさくらの死を悔やんでいること、さくらがアイドルになりたかったことを知っていること、そして強い意志をもって何かを成し遂げようとしていることです。

つまりこれらから想像できる事象を繋ぎ合わせると、ゾンビランドサガプロジェクトはさくらアイドルにすることで彼女を救うという幸太郎のエゴから始まったプロジェクトだ、ということが推測できます。

これが私が「ゾンビランドサガは源さくらを救うためのプロジェクト」と言った理由です。

(「佐賀を救う」という名目は、徐福に助力を得るために便宜上必要なお題目か、あるいは力を貸す代わりに徐福から提示された交換条件といったところなのではないかと考えていますが、ここではあまり必要のない情報なのでいったん切り捨てます)

 

 

ゾンビランドガリベンジは誰のための物語か

ここからは上の推論が正しいと仮定したうえでの話です。

ではゾンビランドガリベンジも源さくらを救うプロジェクトの続きなのでしょうか。恐らくそれは違います。

なぜなら、源さくらは1期の最終回で救われているからです。生きていた頃の記憶を取り戻してなおアイドルであり続けることを選択できた彼女は、既に正真正銘アイドルです。つまり源さくらが救われる物語は1期で一応の決着がついているのです。

ではリベンジとは誰の物語なのでしょうか。「ようやくアイドルになったさくら(フランシュシュ)の成長物語」も「佐賀を救うための物語」もおそらく正しいと思います。

でも私が思うに、ゾンビランドガリベンジは「巽幸太郎が救われるための物語」です。

 

まずリベンジ1話では、巽幸太郎は失意の中に居ます。1期11話とは対比的に、さくらが幸太郎を救おうと叱咤激励を飛ばすというシーンが印象的ですね。フランシュシュは全員EFSの失敗から立ち直っているが幸太郎だけ未だ立ち直れないままでいるこの第1話は、この物語が巽幸太郎の再起を描く物語なのだろうと予感させます。

ですがEFSの失敗から立ち直ることと幸太郎が救われることはイコールではありません。なぜなら、ゾンビランドサガプロジェクトの最初から彼はずっと救われないでいたからです。源さくらやフランシュシュのメンバーをゾンビにして生き返らせたのは彼のエゴであり、それが正しい行いだとは誰も認めてくれないという問題があるかぎり、彼は立ち直っても救われないのです。

 

1期11話で生前の記憶を取り戻し自暴自棄になったさくらは幸太郎に向かって、「誰もゾンビになりたいなんて頼んどらん!」「お願いやけん、私を巻き込まんで」と言っています。

幸太郎はその場では強気にさくらの言葉を一蹴していますが、自分の全身全霊をかけて「たとえ誰に恨まれようと」「たとえ神や悪魔が相手になろうと」彼女をアイドルにすると決意した女の子から「誰もゾンビ(アイドル)になりたいなんて頼んどらん!」と言われたのです。そりゃあ自分のエゴが本当に正しいのかどうか、疑わずにはいられないでしょう。

それでも幸太郎が強気でいられたのは、さくらをアイドルにするという絶対的な目標があったからで、そのためなら「たとえ誰に恨まれようと」、たとえさくら本人に恨まれようとやってやるという覚悟があったからです。

そんな彼がEFSでの失敗で心が折れてしまったのはある意味当然とも言えるかも知れません。さくらをアイドルにするという目標を達成したことで自分の心を支えるものはなくなり、自分のエゴの是非にはずっと悩まされ続け、そこにアイドル史上最大の失敗を経験したのですから立ち直れなくなるのも当たり前です。「今までどんな困難も乗り越えてこられた」という小さな希望があったとしても、それすらEFSの失敗で潰れてしまったのですから。

 

ではそんな巽幸太郎を救ったのは何だったのでしょうか。リベンジ1話のさくらの鼓舞でしょうか? その後の徐福との会話でしょうか?

確かにさくらの鼓舞や徐福の言葉で幸太郎は一見立ち直ったかのように見えますし、彼女らも幸太郎を救おうとして声を掛けたのは間違いありません。しかし、幸太郎の問題が自身のエゴの是非がわからないというところにあると考えるならば、彼女らの鼓舞は根本的な解決になっていません。

となると、一見復活して平気になったように見えるリベンジ2話以降も、まだ幸太郎は救われていないということになります。

そこからしばらくフランシュシュはテレビやラジオなどの新しいことに挑戦するのですが、巽幸太郎へのフォローは全くありません。

7話ではさくらに憧れてフランシュシュに加入する楪舞々が登場し、11話では避難所で少しでも人々の心を和らげようとゾンビバレのリスクを背負いながらもアイドルとして活動を続けます。今まで水野愛みたいにキラキラしたいという思いでアイドルをしていたさくらが、何のためにアイドルをやるのか、その意義を実感していきます。

しかしさくらの成長を見ても幸太郎はまだ救われません。というか彼女のアイドル活動を見て救われるならば、もうとっくに救われているはずなのです。

 

源さくらの激励も成長も、幸太郎を救うことはできませんでした。じゃあいったい誰が救えるのでしょうか。

誰が救えるのかなどと言いましたが、結局それは他でもなく源さくらだけなのです。

 

リベンジ11話の終盤、豪雨で壊滅的な被害を受けた佐賀で避難所にてようやく合流できたフランシュシュと幸太郎。幸太郎はこの未だかつてないほど困難な状況でもEFSでのライブ決行を宣言します。厳しい現状を把握しながらも、それでもフランシュシュを鼓舞し、16日後の3月8日にEFS集合という約束をして幸太郎はフランシュシュのもとを去ろうとします。

しかしその去り際、幸太郎を呼び止めたさくらが彼に言葉を掛けるのです。

そこで彼女が言った一言こそが巽幸太郎という男を救いました。

 

「私をアイドルにしてくれて、ありがとうございました!」

 

そう、彼を救ったのはたった一言の感謝の言葉です。

ゾンビランドサガプロジェクトを通して巽幸太郎は一番孤独で、誰からも支えてもらえない立場に居ました。

リベンジ10話でサガジンの記者大古場に「死者をば晒し者にするのはもうやめろ!」と言われた時だって、さくら本人に一度は拒絶されている幸太郎が同じことを悩まなかったわけがありません。

だからそんな幸太郎を救えるのはやっぱり彼のエゴをさくら本人が肯定することだけであり、今まで為されなかったそれはさくらの感謝の一言によっていとも簡単に為されたのです。もちろんさくらはそんなことを考えて発言したわけではないでしょう。それでもどうしようもなかった幸太郎の心はようやく救われたのです。

 

 

本人から許された彼はもう無敵です。佐賀知事の下に単身乗り込んだりもするし、大古場を通じて全国にフランシュシュの存在を喧伝もするし、使える手は全部使ってフランシュシュを盛り立てます。そんな彼が次なる目標として打ち立てたのはやっぱり佐賀を救うことなんかじゃありません。

 

「お前の夢は駅スタごときじゃあない! お前の……お前らの夢は、世界一の、永遠のアイドルになることじゃい!」

 

やっぱりゾンビランドサガプロジェクトはどこまでも巽幸太郎のエゴで、だからこそこのプロジェクトが次の段階へ進むには巽幸太郎が救われる必要がありました。エゴを認められたという大義名分がなければ、彼は必ずまたどこかで折れてしまうでしょうから。

だから私はこのリベンジという物語が「巽幸太郎が救われるための物語」だったと思うのです。