自分の児文

元々は児童文学の感想置き場でした

イエスタデイをうたって 感想

2020年春より放送されていた作品、『イエスタデイをうたって』。

先日めでたく最終回が放送されましたね。

このアニメ化に際して後日談の短編が執筆されたり、いろんなインタビューが読めたり、ファンとしては楽しい3ヶ月でした。

 

今回はそんなイエスタデイをうたってのアニメの感想を書いていきます。春アニメ感想を書いていたのですが、イエスタデイだけ長くなったので一記事に分離することにしました。

原作が好きなので、どうしても原作と比べてどうだったかが主な感想になってしまいましたがよろしければ読んでください。

 

 

良かった点

・前半のアニオリシーン

どう考えても1クールに収まるわけがないので様々なシーンの切り貼りは予想していましたが、繋ぎのアニメオリジナルシーンの完成度が高かったですね(前半のみ)。

榀子が髪を切るカットの挿入や原付に乗っている晴が陸生に改めて自己紹介するシーンなど、補完として素晴らしかったと思います。

 

・"匂い"

キャラデザの谷口さんと藤原監督へのインタビューで度々"匂い"というワードが出てきたのですが、かなりしっくり来ましたね。演出や作画の良さもこれに集約しています。

仕草や息遣い、目線や表情、服装や部屋の内装に至るまで、それらから立ち上る"匂い"が確かに感じられて。それは多分、それぞれが想い描くディティールの再現度が高かったりフィクションとしてのリアリティーがあるってことなんだろうなと思います。

 

 

・主題歌

個人的に前期主題歌の『籠の中に鳥 / ユアネス』がめちゃくちゃ好きで。

中でも曲のサビで繰り返し出てくる、

あぁ どうすれば この身体から

あなたを隠すことができるのか

ねぇどうすれば ねぇどうしたら

笑って 昨日を 唄ってられるのでしょう

というフレーズが印象的です。

全員が自分を誤魔化してでも無理やり前に進もうとするから、陸生と晴の関係も、陸生と榀子の関係も段々と歪んでいって。そして歪みきった末にようやく自分達が求めていたものを過去に置いてきてしまったことに気付く。

そういうこの作品の本質的な一面が見事に落とし込まれた見事な歌詞だと思います。

この「あなた」は物語序盤では榀子から見た湧なんですが、物語終盤になってくると陸生から見た晴でもあり、晴から見た陸生でもあり、榀子からみた浪でもある、と読めるようになる仕掛けもあるんですよね。(終盤が9割カットされていたのでアニメだとピンとこないかもしれません)

曲について語るとキリがないのですが、一度歌詞を見ながらじっくり聞いてみて欲しいです。

 

 

悪かった点

悪かった点はいくつかありますが、その原因は概ね尺が足りなかったことに集約されると思います。特に最終回は尺が足りなすぎて全体的に違和感が凄かったです。

 

・台詞回しやキャラのブレ

終盤のこじれが9割ぐらいカットされ、それによりキャラクターの思考が単純化されすぎて、台詞回しやキャラのブレが生じていました。

例を挙げると公園のベンチで陸生と榀子が話すシーン、陸生はあんな直接的に話すキャラクターじゃないですし、榀子もあんな感情をあらわに泣いたりするようなキャラクターじゃないと思います。

もっと言うなら、陸生がすぐに榀子との恋人関係を解消できるような性格ならこの話はここまでこじれてないと思うんです。

尺が足りないから原作のような間や目線、雰囲気や回りくどく本質を避けた会話でゆっくりと話を動かすわけにもいかず、無理矢理に台詞にして違和感の擦り合わせを進める必要があったのでしょうか。

 

 

・終盤の雰囲気

前述のことと繋がるのですが、違和感を自覚しながらも停滞している、という期間が短すぎて、すっぱり関係性を整理して明るく終わってしまったという印象を受けました。

陸生と榀子は幸せなはずなのに拭いきれない違和感が横たわり、思考が絡まっていく。そんな灰色の雰囲気があまり再現されていなかったな、と。

 

 

・出てこないキャラクター

原作には晴のことを好きな雨宮というキャラクターや浪と同棲する女性キャラクター、更には雨宮を好きなキャラクターまで出てきます。彼らが出てこなかったせいで晴や浪の葛藤や悩みが薄くなってしまい、ドラマとして魅力が半減してしまったなという感じがしました。何重にもなった三角関係四角関係のそれぞれの結末も魅力の一つなので、描かれなかったのは勿体ないなと思います。

その他にも木ノ下さんの妹の話やミルクホールのマスターと熊さんの話、そういった本筋に関係ないようで実は大事な話が無くなっていたのも悲しかったですね。

これらはメイン4人を軸に再構成するという点では仕方ないのかもしれませんしある意味で正しいのかもしれませんが、それで原作の良さを再現できたかは別で、難しいですね。

 

 

総括

冬目景作品は元々大好きだったのでアニメ化に際しては不安が大きかったです(これと羊の歌、ももんちぐらいしか読んでませんが······)。

最終回以外は概ね満足ですが、総じて端折られた部分が多かったです。本質的な部分もそうでない部分も。言うなればこのアニメはストーリーの大筋をなぞった総集編+アニオリの結末、といったところでしょうか(陸生が晴とくっつくとかそういう事実が変わったわけではないけれど、如何せんシーンだけ持ってきて台詞や状況が違うみたいなことが多かった)。

カタルシスを得るための助走期間、絶対的な"長さ"が必要な作品ってあると思うのですが、これもそういう作品だと思います。アニメは1クールでだいぶあっさりと終わってしまって、独立した1本の作品と見れば良い出来だったのかもしれないけれど、原作つきの作品と見ればそもそも1クールでアニメ化したのが不誠実だとも言えます。

彼らにも何気ない日常は沢山あって、アニメの何倍もうだうだ悩んでるしそれと同じぐらい日常を謳歌していて。でもそれが結末に重みを与えてくれる、そんな作品だと思うのです。

 

 

おわり